第22章 Not Believe…
パタン…、と何かを吹っ切るかのように寝室のドアを閉めたオーナーは、バッグの中から一枚の書類を取り出した。
よく見るとそれは、俺が入店の際に書かされた誓約書のような物で…、オーナーは俺の目の前で破り捨てた。
「二宮、智を頼むな」
「オーナー…」
「それから上島のことは心配するな。俺が片をつける」
一度は消えたと思ったオーナーの目の奥の炎が、再び燻り始めたような気がして…
「オーナー、まさか危険な真似は…」
後で智が事実を知った時、悲しむようなことだけはして欲しくない。
「心配するな。そこまで馬鹿じゃないさ…」
どうしてだろう…、一抹の不安を感じるのは…
オーナーが部屋を出て行き、後に残された俺達は、智が所持していた薬物の痕跡を、跡形もなく処分した。
とは言っても、智自身の身体から薬物を取り除くには、相当な時間がかかる。
俺達は一先ず智を近藤の自宅へと移すことにした。
その方が、智にとっても、俺にとっても良いと思ったからだ。
近藤の助けがあったとしても、俺一人で智の面倒を見ることは、到底不可能だし、近藤にしたって同じだ。
企業のトップである以上、仕事を疎かにして智にかかりきりになる訳にはいかない。
俺は自分の分と智の分、最低限の荷物だけを纏め、近藤の車に乗り込んだ。
近藤に抱きかかえられ、部屋を後にした智は、相変わらず眠ったままだ。
「これからが大変だな…」
ハンドルを握った近藤が、ポツリ言った。
一度薬物に手を染めてしまったら、二度とそこから抜け出すことは難しいとは聞いたことがある。
まるで底なし沼のようだ、と…
先のことを考えれば、正直怖くなる。
でも、それでも俺は、智を見捨てることなんて出来ないんだ。
例えこの先どんな苦しみが待ち受けていようと…
俺の膝で、安心しきったように眠る智の髪を撫で、俺は一人心に誓った。
そして数日後…
海外逃亡を図った上島が、違法薬物所持の疑いで逮捕されたこと…
それに付随するように、違法に売春を斡旋していたことを理由に、松本潤が経営していたショーパブが警察からの摘発を受け、オーナーである松本潤が参考人として検挙されたことが、テレビや新聞各所で報じられた。