第21章 Fade away…
「元々は俺が習ってたんだけどね…」
「ダンス…を…? アンタが?」
「ダンスなんて、そんな大層なもんじゃないけどね?」
近藤は一瞬照れ臭そうに笑ってから、過去に思いを馳せるように遠い目をした。
「なんで…? どうしてやめちまったんだ?」
俺の問いかけに、近藤は“そうだな…”と呟くと、何かを考え込むような素振りを見せた。
話したくないこと…なんだろうか…
でも実際はそうじゃなくて…
「俺には才能がない事が分かったから…かな…」
「才能…? そんなモン…」
迷信ぐらいにしか思ったことがなかった。
才能なんてモンは、努力次第でどうにでもなるって…
「でも弟は…正広は違ったんだ。アイツには才能があった。正広自身感じていたんだろうね…、俺が親父の跡を継ぐと決めた途端、ダンスで世界を目指すって言い出してね…」
俺と潤の関係に似てる…
ただ、俺は自分の才能なんてモンを信じちゃいなかったけど…
「それ以来かな…。俺はキッパリダンスの道を諦めた、ってわけだ…。俺には他に学ぶべきことがあったからね…」
「ふーん…。それで、その弟は…? ダンサーになる夢叶えたのか?」
いくらテクニックがあったって、センスがあったって、憧れや夢だけで叶えられる世界じゃない。
俺だって出来ることなら…
もうどうやったって叶えられそうもないけど…
諦めにも似た気持ちで息を吐き出した時、向かいに座った近藤が、微かに鼻を啜ったような気がして…
えっ…、泣いて…る…?
近藤は強い男だとずっと思っていた。
なのにその近藤が、声も上げず啜り泣くなんて…
俺は近藤のそんな姿を見てはいけないような気がして、視線を足元に落とした。
涙の理由なんて聞かなくていい…
そう思った。
でも近藤は静かに天を仰ぐと、
「弟はね…、正広は死んだよ…。丁度、あと少しで夢に手が届く…って時だったかな…、病気でね…」
「そん…な…」
漸く夢を掴みかけたのに…
その夢を自らの意志とは関係なく手放さなきゃいけないなんて…
「そんなの…、悲しすぎるよ…」
「そう…だろうね…、きっと辛かっただろうね…」
近藤の手が、俺の膝の上で震える手に重なった。