第19章 Clue…
智の実家は、例のショーパブからそう遠くない、数キロ離れた先にあった。
長閑(のどか)な田園風景…とまではいかないが、周囲を緑に囲まれた閑静な住宅街の一角にあった。
父親が鉄工場を営んでいるという智の実家は、ごくごく普通の…どこにでもある門構えの家で…
俺はその前に車を停めると、緩めていたネクタイをキュッと締め直し、ジャケットのボタンをキチンと締めた。
これじゃまるで結婚の挨拶でもしにきたみたいじゃねぇか…
実際はそんな目出度い話でもないのに…
俺は小さく息を吐き出すと、目の前のブザーを押した。
一瞬、緊張が走る。
でもそれを打ち消すかのように、
「どちらさま?」
玄関ドアの向こうから、明るい声が返ってきた。
「あの、櫻井と申しますが、智さんの事で…」
ドア越しに答えた俺を、勢い良く開いたドアから覗いた、智に面差しがよく似た女性の驚いた表情が出迎えた。
「智のお母さん…ですよね? 実は私は…」
言いかけた所で智の母親と思しき女性は家の奥を振り返ると、
「お父さん、ちょっと…」
と、声を張り上げた。
数秒後、何事だと言わんばかりに足音を響かせながら家の奥から顔を出した男性は、俺の顔を見るなり、首に巻いてたタオルを外し、頭を深々と下げた。
一体どういうことだ?
状況が全く飲み込めずに首を傾げる俺に、二人は家の中に入るよう促した。
こじんまりとした、でも陽のよく当る居心地の良いリビングに通された俺は、ソファーに座るなり、挨拶もそこそこに思い付いたことを口にした。
「あの、ひょっとして俺のことをご存じで…?」
すると二人は顔を見合わせ、智が時折見せるような、柔らかな笑みを顔に浮かべた。
「はい、貴方がどんな人で、何をしているのか…、存じ上げています」
やっぱりか…
そうじゃなかったら、智の父親が見せたあの反応は説明が付かない。
「で、でもどうして…」
「実は、智から一度だけ自宅に電話がかかってきたことがありましてね…」
「えっ…? 智から…ですか?」
思いもかけなかった親父さんの言葉に、今度は俺の方が驚きを隠せなかった。
あのバカ…、俺にはんなこと一言も言ってなかったじゃねぇかよ…