第19章 Clue…
智が出て行ってからというもの、まるで激流を下るように傾きだした経営を立て直すため、俺は昼夜を問わず奔走した。
…と言っても、俺に出来ることなんてたかが知れていて、それでもなんとか劇場の運営を維持出来ているのは、親父の力が大きく作用しているわけで…、こうなった以上プライドなんてモンは何の役にも立たない。
不本意ではあったがその親父の力を頼ることにした。
親父自身、劇場に対しては深い思い入れがあることを、俺は幼い頃から知っていたから。
智に関しても、貴族探偵から時折寄せられる情報だけでは足りなくて、親父の人脈を利用させて貰うことにした。
風俗業界に携わる人間なら、親父を知らない奴はいないってくらい、業界内では顔が広いし、当然顔だって利く。
その力を利用しないって選択肢は、情けないことだけど俺にはなかった。
ただその親父の力をもってしても、坂本が言っていた”MJ”という人物に関してだけは、どうしても情報が得られなかった。
それどころか、例のショーパブの周辺にある風俗店の殆どに、”風俗業界のドン”とまで呼ばれる親父の顔が通用しなかったと言うんだから驚きだ。
「打つ手なし、か…」
貴族探偵から送られてきた調査書と、親父の部下が持ち込んだ報告書を交互に見て、雅紀が落胆の息を吐き出した。
雅紀は雅紀で、ニノのことが心配で仕方ないんだろうな…
時間を見つけては、茂子さんの店にニノから連絡があるかもしれないからと、わざわざ足を運んでいるとも聞くし…
このままじゃ、劇場は何とか持ち堪えられたとしても、俺と雅紀の方が先に潰れちまう…
何とかしねぇと…
「俺さ、智の実家に行ってみようと思う」
俺は少し前から考えていたことを口にした。
「智の実家に?」
「ああ。智が実家を出たのは17の時だからな…。当然、親御さんだって智のことは調べてる筈だろ?」
「確かに…」
「っつーことで、ちょっと出かけてくるわ」
勿論、情報が得られるなんて保証は、どこにもない。
寧ろ、行くだけ損…、なんてことも考えられないわけじゃない。
でも今は…
どんな小さなことでも言い、僅かな可能性に賭けたいんだ。