第1章 Stage…
「智さん、そろそろ時間です」
俺を呼ぶ声に、
「今行く」
振り返ることなく、鏡に向かったままで答える。
俺は最後の仕上げに、唇に赤い口紅を引くと、ガウンを脱ぎ捨て、代わりに薄い布を纏った。
「行ってくるから…」
鏡の横に立てられた写真立てに向かって声をかける。
いつの頃からか恒例になった俺の儀式…
俺は長く垂らした薄い布の端を摘むと、ホットパンツの一番上のホックを外した。
薄暗い階段を降り、そこで待ち構えていた男の首に両腕を回す。
支配人の翔だ。
「行ってこい」
「ああ、行ってくる」
翔は俺の顎に手をかけると、口紅を引いたばかりの唇に自分のそれを重ねると、そっと俺の腕を解いた。
そして俺は翔に背中を押され、舞台袖からステージの中央へと躍り出た。
深く息を吸い込み、一気に吐き出すと、その瞬間を待ち侘びていたかのように、クラシックの音楽が流れ始め、スポットライトが俺を照らし出した。
途端に湧き上がる野太い歓声…。
俺は素肌に巻き付けただけの薄い布を靡かせるように両手を広げた。
すると色めき立った男達が一斉に身を乗り出し、俺に熱い視線を向けた。
俺はライトで飾られた細い花道を、腰を妖艶にくねらせながらセンターステージまで歩くと、その中央に尻を着き、ホットパンツから伸びた両足を、膝を折るようにして絡めた。