第15章 Signs...
今考えれば、何もかもが不自然で、違和感だらけだった。
どれだけ強く抱いても、「まだ足りない…」と言って更に深い繋がりを求めたり…
そんなこと、今まで一度だって無かったのに…
しかもそれが毎晩となれば、何かがおかしいと思わなければいけなかったのに…
それにあの時だってそうだ、突然飲みに誘ったり…
いつもなら俺が適当な理由を付けて”ノー“と言えば、渋々でも引き下がるのに、あの時に限ってはいつになく強引だった。
結局、あんまりしつこく誘うから、俺が根負けしたわけだけど…
そして極め付けは突然のプログラム変更だ。
まさか杮落としの舞台で見たあのプログラムを、再び見ることになるなんて…
そしてそれが最初で最後のステージになるなんて…、考えたこともなければ、想像したことだって無かった。
勿論、いつか俺の前から消えてしまうんじゃないか、って予感はしていた。
だけど…、こんな突然に、理由も何も告げられないままなんて…
俺達が共に過ごしてきた時間は、一体何だったんだ…
お前が俺に抱かれながら呟いた言葉…、
「愛してる…、ずっと翔だけを…」
あれは嘘だったのか?
いや、違う筈だ。
あれは少なくとも智の本心だった筈だ。
でもだとしたらどうして…
智のいなくなった部屋の片隅で、以前飲み過ぎで悪酔いした結果、智に禁じられて以来、滅多に口にすることのないなかったバーボンの瓶を傾けた。
ウィスキー特有の甘いような、それでいて香ばしいような、鼻をツンとつく香りに噎せ返りそうになりながら、ストレートで乾いた喉に流し込めば、喉が焼け着くように熱くなる。
味わう余裕なんて、どこにもなかった。
ただそこに智がいない…、そのことだけが、俺の瓶を傾ける速度を上げた。
なのに不思議なんだよな?
どれだけ飲んでも、全然酔えねぇんだよ…