第13章 Life…
その日から、俺の生活の全てが、ダンス一色に染まった。
飯の時間も、風呂の中でも…、それこそ夢の中でも、ダンスのことで頭がいっぱいだった。
翔が帰宅したことすら気付かないくらいに…。
それでも翔は、侵食すら忘れてダンスに没頭する俺を、咎めることは一切なかった。
寧ろ、どんどんダンスにのめり込んで行く俺を、とても暖かな目で見守っていてくれた。
テクニックはあっても、“表現“をするということが理解出来ていない俺に、勉強の為だと言っては、歌舞伎や日舞…バレエの舞台にも連れて行ってくれた。
翔の奴、大概は鼻提灯作って船漕いでたけどな(笑)
幸せだった…
溢れる音の中で、ダンスのことだけを考えていられる時間が、とても幸せだった。
いつしか俺の中で、踊ることが…、踊ることだけが、俺が生きる理由の全てになって行った。
そうして迎えた、俺の劇場デビューの日…
家を出た時は期待でいっぱいだった胸が、初めて施されるメイクと、派手なステージ衣装に身を包んだ瞬間、不安で溢れかえった。
ステージ袖に立つと、何故だか足が竦んだ。
急に怖くなったんだ、ステージに立つことが…
元々は趣味で踊ってただけなのに、いつしか俺の“夢”になったダンスが…怖くなった。
そんな俺を見兼ねたのか、翔はステージ袖で俺をそっと抱き寄せると、口紅を引いた唇にキスをしてくれた。
おまじないか何かのつもりだったんだろうな…
そして、たった一言
「行ってこい」
そう言って俺の背中を押してくれた。
そのおかげか、記念すべき俺のデビューは、完璧…とまではいかなくとも、それなりに満足の行くステージに仕上がった。
客の反応だって、上々ではないにしても、悪くはなかった。
それから…だっけな…
毎回ステージに上がる前に、翔にキスを強請るようになったのは…
翔からのキスが、不思議と俺の緊張を解してくれたんだよな…
でも…
それももう終わりだ…
もう二度と俺は…このステージに立つことはないだろう…
『踊り子』ー第二部完結ー