第13章 Life…
「じゃあ、俺行くわ…。悪かったな、時間取らせて」
俺が服を着終えるのを待っていた翔に向かって、軽く頭を下げる。
恋人とはいえ、一応は支配人だから、そこら辺の区別はキッチリ付けておきたい。
「ああ、構わねぇよ。それより智…」
ステージから飛び降りようとした俺の手を、翔の手が掴む。
「なに…?」
振り向いた時には、もう俺の身体は翔の腕の中で…
顎にかかった指で顔を持ち上げられると、翔の唇が俺の唇を塞いでいた。
「なっ、なんだよ…いきなり…」
キスをされたことにじゃない、翔にしては珍しく大胆な行動に驚いた俺は、咄嗟に翔の腕から逃れ出ると、熱くなった顔で辺りを見回した。
別に、俺と翔がそういう関係だってことは、劇場関係者の中では周知の事実だし、今更誰に見られたって知ったこっちゃねぇ。
でもそれは“俺自身”のことであって、翔はそうじゃない。
支配人である以上、一応立場ってもんがあるだろうから…
「くく、誰も見てやしねぇよ」
「で、でも…」
言いかけた俺の言葉を、再び翔の唇が塞ぐ。
強引に割り入って来る舌先の熱さに、腰が崩れ落ちそうになる。
頭の芯がボンヤリとして、自然と身体が火照って…
もっと…と、これ以上はダメだって分かってるのに、我儘な俺はつい強請ってしまいそうになる。
だから…かな…
ゆっくりと唇が離れて行った時、やたらと寂しさが胸に溢れて、俺は翔のシャツをキュッと掴んでいた。
「続きは家に帰ってからな?」
「約束だかんな?」
「ああ、今夜ば寝かせてやんねぇから、覚悟しとくんだな」
シャツを掴んだ俺の手をやんわりと解き、キザなウィンクを一つして俺の背中を押した。
「ぜってーだかんな?」
「分かった分かった(笑) ほら、早く行かねぇと、雅紀の雷が落ちるぞ」
「やべっ…。アイツさ、恥顔して超怖ぇーんだから…」
俺はステージから飛び降りると、ステージ上で肩を揺らす翔に手を振り、出口のドアを開いた。