第13章 Life…
土砂降りの雨の中、俺を拾ったのは、年は俺よりも五つ上の、櫻井翔という男だった。
翔は俺を助けた恩返しだと理由をつけて、俺に家事の全般を押し付けた。
「本気で死にたくなるまでの間だけな」と言って…
助けてくれ…なんて、誰も頼んじゃいないし、なんならあのまま死なせてくれれば良かったのに…
そしたら今頃俺は…
実際、逃げ出そうと思えば、いつだって部屋を出ることは出来た。
潤の所に逝くことだって、出来た筈なのに…
なのに翔の元を離れなかったのは、翔が俺に何も聞かなかったから…なのかもしれない。
ただ一つ、「家出か」と問われた時も、俺がハッキリ答えなかったからか、それ以上は問いただすことはしなかった。
間違いないではないけど、ただ「家出」なんて簡単な言葉とは、少し違っているような気がしたから…
それに約束してくれたから…
「潤の所へ連れてってやる」って…
潤が何処にいるのかも知らないくせに…
翔と暮らし始めて数週間経っても、俺の死への欲望は、徐々にではあったが薄れることはあっても、完全に消え失せることはなかった。
洗濯物を干しにベランダに出ては、手摺から身を乗り出し、料理をしようと包丁を握っては、その刃先を手首に宛がった。
ふとした瞬間に呼び起こされる、潤に対する底知れぬ罪悪感が、無意識にそうさせていたのかもしれない。
そんな俺を見ても、翔は一切止めようともしなかった…と言うか、寧ろ待っていた…ような気がする。
俺の中から死への欲望が消え失せるのを…、黙ってじっと…
そして俺が我に返ると、必ずと言っていい程、
「お守りの効果があったな…」
そう言って、俺の尻ポケットを指差した。
潤の写真を忍ばせたポケットを…
俺にとっては、このたった一枚残された写真が、潤の元へ辿り着くための手掛かりであり、道標でもあって…お守りなんて…そんな立派な物じゃないのに…