第11章 First contact…
「もうこの話終わりにしようぜ?」
気まずさの余り、俯いたまま黙りこくってしまった俺の顔を、心做しか水分を多く含んだ潤の印象的な目が覗き込む。
そして静かに伸びて来た手が俺の頬を包み込み、唇が触れるか触れないか…、ギリギリの位置まで引き寄せられて、ピタリと止まる。
その距離はそれ以上縮まることはなく、ただお互いの遠慮がちに吐き出す息だけがぶつかり合う。
「じゅ…ん…?」
思わず上げた声に、潤の長い睫毛が一瞬ピクリと震えた。
「なあ智? 一つだけ…聞いてもいいかな?」
「なん…だよ…?」
掠れた声に、掠れた声で答える。
「俺がもし…もし、だけど…智のこと抱きたい、って言ったら…智は応えてくれる?」
思いがけない一言に、心臓が大きく跳ね上がり、俺は目を見開いた。
予想してなかったわけじゃない。
“恋人”として付き合ってるなら、当然の流れだと思ってた。
ただ俺達が、“お試し”なんかじゃなく、本当の意味での“恋人”なら、だけど。
「それって…つまり、俺とセックスしたい…ってこと…?」
暫く考えてから絞り出すように返したストレートな問いかけに、俺を見つめる潤の瞳が激しく揺れ動く。
「智が嫌なら…」
「いいぜ…しようぜ、セックス…」
迷いなんて微塵もなかった。
俺は潤の肩に両腕を絡めると、一向に縮まることのない距離を一気に詰め、戸惑いの色を浮かべる潤の唇に、自分のそれを強く押し当てた。
どうしてそんなことを言ったのか…
どうしてそんなことをしたのか…
正直、俺にだって分からない。
ただ一つ分かっていたのは、潤に対する罪悪感…それだけだった。
希望に応えることで、潤の気が済むならそれでいいって…
それで俺自身の狡さが許されるって…
元の関係に戻れるって…
そう思ってたんだ…。
一度縺れてしまった糸が、そう簡単に解けるわけなんてないのに…