第11章 First contact…
「じゃあ…、俺帰るわ…」
潤が勢いよく腰を上げ、ズボンに着いた砂を手で払う。
そしてベンチで背中を丸めたまま、動けなくなってしまった俺を振り返ることなく、
「悪かったな、今まで練習の邪魔して…」
感情を押し殺したような口調で、自転車に跨った。
違う…、そうじゃない…
引き止めなきゃ…
ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ…
思えば思う程、喉の奥に何かが引っかかったように声も出せないし、身体を動かすことすら出来ない。
「じゃあ…な…」
潤の足がペダルを漕ぎ出す。
駄目だ…、このままじゃ駄目だ…
「待てって…、俺の話も聞いてくれって…」
今にも走り出そうとハンドルを握った手を、咄嗟に掴んだ。
「違うんだ、誤解なんだって…」
「何が違うの? 誤解って何? 邪魔なら邪魔って言ってくれれば良かったじゃん…。大体最初っから分かってたんだ、俺と智とじゃレベルが違うって…、でもいつかは俺もってさ…。でもさ…やっぱ無理だわ…」
そんな…
潤がそんな風に思っていたなんて…
潤の手を掴んだ手からどんどん力が抜けて行き、ついには糸が切れたみたいにダラリと垂れ下がった。
そして言い訳をする気力すら失くした唇からは、
「ごめん…」
と、声とも吐息とも取れないような…掠れた一言が零れた。
「謝んなって…。つか、謝るってことは、話受けるってこと…だよな?」
「あっ…」
「俺、さ…、これ以上惨めになりたくねぇから、行くな?」
潤の手が伸びてきて、俺の頭をポンと撫でる。
その指先が震えてるのが、触れた部分からも伝わってくる。
駄目だ…
やっぱりこのまま誤解されたままなんて嫌だ。
潤との関係をこんなことで終わらせたくはない。
なのに…
結局俺は暗闇に紛れるように遠ざかって行く潤の後ろ姿を、突然降り出した雨に打たれながら見送ることしか出来なかった。