第7章 ワナにハマった俺のせい?
「あ、あの、えっと……。」
……何だよ。
何が言いたい?
怪訝に思いながらも、その様子をじっと見ていれば、美咲はあちこちに視線を彷徨わせ、小さな手をもじもじと動かし、口を閉じたり、開いたり。
何かを言いたそうにはしているが、どうもその先は、出て来ないようだ。
あたふたする美咲なんか、普段見慣れねぇからか、何とも可愛らしい。
俺はまた、ふっと笑った。
「……面白れぇやつだな、お前。」
「え?」
ぽかんとしている美咲に歩み寄り、その頭に手を乗せた。
まだ“?”を浮かべている彼女の耳元で、ソッと囁く。
「解散が早かったら、今日も来る。」
そう言った途端、彼女はサァっと顔色を変えて。
「え、ちょっと……。」
慌てたように、俺に反論しようとするのを遮って、にっこりと微笑んでやる。
「昨日出来なかったし、今日はいっぱいしよう、な?」
言うだけ言って、部屋を出た。
この状況は、あの日の朝に非常に似ていて。
美咲が追って来る気配はなかった。
……絶対に、逃がさねぇ。
眠る前の、まどろんだ時間も。
抱き締めた腕の中の、体温も。
寝起きの無防備な、その顔も。
全部。
全部、俺だけのモノだ。
これが歪んだ表現だということは、理解していた。
他に、もっとマトモな方法だってあっただろう。
ミカサのように真っ直ぐ追いかけたり。
コニーやサシャのように、馬鹿正直だったり。
でも、俺には出来ない。
もう、遅い。
俺は、美咲が確固たる意志を持つ前に……
そう。
戸惑って対処出来ずにいるうちに。
俺と一緒にいることを、“習慣”のようなものにしてしまおうと、考えていた。
美咲が気付かない内に。
俺を刷り込んでやる。
絶対に、逃してなんか、やらねぇ。
静かな廊下を歩き、朝日が眩しくなっていく中。
俺は決意を新たに、部屋に戻った。