第6章 別人なアイツに捕らわれた私
「……でもさ、ジャン。」
「何だ?」
パンを口に運ぶジャンに、今度は私から攻撃を始める。
「ジャンは、訓練兵の時からずっとミカサの事が好きだったでしょ?しかも給金が入ったら、美人が集まる娼婦のところにも行けるわけだし、わざわざ私なんかに手を出さなくても良かったんじゃないの?」
そう。
そうなんだ。
今日、フと思い付いた事。
“わざわざ”手を出したジャンだって、共犯に違いない。
しかも、キスを仕掛けて来たのはジャンだと言うし。
私はやっとここでジャンに一矢報いる事が出来た、ような、気がする。
「確かに、そこまで困っちゃいねぇが、セックスに否定的だった女が“わざわざ”潤んだ目で誘ってくれたんだし?お受けしねぇと失礼だと思って、な?」
にっこり、笑いながら酷い台詞を吐く男。
しかも『わざわざ』を、強調して言いやがった。
言い返せずに、私は唇を噛みしめる。
だから、顔と言葉があってないんだってば!
ああもう、ムカつく!
私は手にしていた飲み物を、勢い任せに、一気に飲んだ。
食べて、飲んで、寝て、忘れよう!
隣にいたジャンは、どっから持って来たのか、グラスに水をついで、チビチビ飲んでいる。
空になったグラスに、また水を注ぐジャンの姿をぼんやりと見た。
コイツが私の部屋に上がり込んだスムーズさも、アルミンの本でいつの間にか馴染んでしまった状況も、パンを半分に分けて食べるなんて私のツボを刺激する事も、あまりにもスマートで。
もしこれが好きな人だったら、「よく出来たやつだ!」と褒めてやりたいと、思った。
が。相手はジャンだ。
「あんたって気が効くし、頭の回転も早いし、将来モテそうよねぇ。ソツないっていうか。…………ホント、胡散臭いわ。」
「は?それって褒めてんのか?貶してんのか?」
「一般的には、褒め言葉よ。」
隣を見ないで私は小さくなったパンを食べた。
モグモグと口を動かす私を見て、ジャンは吹き出した。
「ハハッ!!ほんっと、美咲って面白ぇ!」
「……どこが。」
「そういうとこ。」
ジャンの様子を伺うと、楽しそうに笑っていて。
私はお腹一杯になって、パンの袋を片付けて、再びジャンの隣に座った。
が、
何故か私の手はジャンによって、掴まれた。