第6章 別人なアイツに捕らわれた私
[美咲side]
見覚えがない宿の一室から私が出たのは、太陽がもう傾いてからだった。
リヴァイ兵長に浮かれていた昨日の気持ちは、遥か彼方に、飛んで行ってしまって、ジャンの顔ばかり浮かんでしまう。
夕陽はとても綺麗で、空はこんなにも澄んでいるのに、気分はどんよりとした、曇り空。
そろそろ兵舎に戻らないといけないのに、戻る気にもなれなくて。
でも帰る場所はそこしかなくて。
昨日、御飯を食べに出る事でお財布は持っていた……から。
出店でパンと飲み物だけ買って、近くの川沿い腰を下ろした。
何も覚えていないけど、あたたかかった夢の中。
自分の初めてが失くなってしまった。
という実感は全くないのに、股の間と下腹部はシクシクと痛い。
なんだってこんな事に……
だって、私が憧れているのは、リヴァイ兵長なわけで。
ジャンが好きな女の子は、ミカサなわけで。
あんまりロクな話しもしないまま、ジャンは出て行ってしまったから、私には訳が分からないまんま。
私は何でジャンなんかと……
そして、ジャンは何で私なんかと……
ぐる、ぐる、ぐる。
考えてみても、答えは出なくて。
溜息だけが増えていく。
溜息を吐くと、幸せが逃げる。って、聞くけど。
逃げるもなにも、溜息を吐く前に、不幸が降りかかってきてしまったら、どうすればいいんだ。
項垂れても、過去には戻らないのは分かってはいるけど。
パンを齧ると、ちょっとだけしょっぱく感じるのは、気のせい、だ。
喉が引き攣って、息がしにくいのも、気のせい。
ポタポタと、服にシミが出来ているのも、多分。気のせい。
せめて、ジャンの心の中に、私への気持ちがあったなら、まだ救いはあったのかも知れないけど。
私の初めては、
私も、相手も、全くお互いを見ていないまま、終わってしまった。