第20章 ※アイツと私の特別な休日
「……なんでだよ?」
「なんでじゃなくって、ホントに嫌。本気で嫌。……あーもぅ、面倒くさいなぁ。早く自分の部屋帰ってよ。」
しっしっ。追い払うようなジェスチャーも付けてやる。
あからさまかつ、強い拒否を見せたと言うのに、ジャンは楽しそうに笑っていた。
「ハハッ! あー……、マジで面白れぇなぁ。」
「は?全然面白くないんだけど。話し聞いてた?」
心底愉快だとでも言うかのような笑い方に、私の眉間は更に深くシワを刻んだ。
ヤバい。
このままじゃ、まだ十代だと言うのに、このシワが定着してしまう。
そんなよく分からない心配をしてしまう程に。
ようやく笑い終えたジャンが目尻に滲んだ涙を拭いながら、言った。
「はー……、もぅ、最高。俺、女にここまで言われたの、初めて。」
「そりゃぁ、アンタがこんな男なんてみんな知らないでしょうからね!」
全く。
……何様だよ、本当に。
そんな事を思っていたら、今度は頬まで引き攣った。
私の顔の筋肉、ジャンのせいで表情筋ヤバい事になるんじゃないかな。
私がジャンを拒むと、彼は郎らかになる。
それは知ってる。
けれど今日は一段とご機嫌のようだ。
私は溜息を隠しもせず、既に残り少なくなった、貴重なヤギのミルクを一口だけ口に含んだ。
「なぁ、美咲ー。」
「何よ?」
「一緒の部屋になろうぜ?」
「嫌だっつってんでしょ、バカ!」
ピシャリ、答えると、ジャンはますます楽しそうに笑う。
何がそんなに面白いのか、理解に苦しむくらい。
ケラケラ笑うジャンを横目に、私は久しぶりのミルクを楽しむ事にした。
土地が減って、貴重なものだから。
やっぱりお水とは違う美味しさで。
給金が入ったらまた買いに行こう。
心の中でそう決めて、またふざけた顔をしている男の相手に戻る。
こんなにもくだらない会話を長くやり取りするのは初めてで、少し新鮮だった。
……かなり面倒だけど。
いつもと違うジャンを適当にやり過ごしながら過ごす休日は、不思議と悪いものじゃなかった。
それは、いつもとは違う食事のせいなのか、時間のせいなのか、この空気のせいなのか。
それとも……ジャンの、せいなのか。
自分でもよく分からなかった。