第19章 ※特別な休みはお前のせい?
向かう先は行き着けのパン屋。
美咲が美味しいと言っていた店。
別に今日一緒に過ごすわけじゃねぇのに、彼女と過ごした影を追っちまう俺は、周りから見たらどうなんだかな。
俺は小さく溜息を吐いて、店内に入った。
初めてきた時は驚いた。
大通りにあるわけではなく、目立つ外見をしているわけでもねぇつーのに、サンドやコロネなど、種類が豊富だ。
そう広くない店内には所狭しとパンのトレーが並んでいるが、雑然としているわけではない。
何となく、店主のこだわりが見える気がする。
俺は何故か自分の分と、美咲が好きだと褒めたパンを買い、店を出た。
瞬間。
目の前に、見覚えのあるシルエットを見つけて俺の心臓が跳ねる。
……美咲だ。
重そうな紙袋を両手に持ち、近くの木陰の元、茜色の空を見上げている。
って、見惚れている場合じゃねぇだろ。
俺は早くなっていく鼓動を抑え、足早に彼女に近付いた。
「どんだけ買ってんだよ。つーか一人か?珍しいな。」
そう言うのと同時に手を伸ばし、美咲の手から紙袋を一つ奪い取る。
突然声を掛けられたせいか、美咲の肩が大きく跳ねて、パッと音がしそうな程に振り返られた。
「ッ、え、ジ、ジャン?!」
「それ以外に誰に見えんだ。」
心底驚いている、そのことを全身で表現している美咲に、俺はフッと笑って答える。
その言い方が気に入らなかったのか、彼女は少ムッとしたような顔をした。
「何してんの?」
「荷物持ち。……つーのは冗談で、お前が前行きたいっつってたパン屋があそこにあんだよ。」
「あ……そっか。」
「お前こそ何してんだ?」
「あ、うん。モブリットさんにハンジ分隊長のご飯、頼まれちゃって。あの人達今忙しいでしょ?……それで、ジャンに教えて貰ったお店にハンジさん達の分も買いに来たの。」
「すげぇ種類あっただろ?経営者がホントにパン好きなんだなってくらい。」
「そーだね!間違いなく。」
くすくす笑う美咲は、職務の時より随分とラフな格好をしていた。
ゆったりとしたシャツに、ロングスカート。
ふと、休日仕様の美咲が笑みを止めて、俺に手を差し出してきた。