第18章 嫉妬と混乱と攻撃のあの人
「……言うな、と言われたら人間喋りたくなるもんだ。」
「へ?」
「誰に聞かれなくないんだ?」
「あ、いや、別に……ただ。」
ぽかんと口を開けた私とは対照的なリヴァイ兵長の表情。
言葉の意味を理解し、縮こまりそうになる心をなんとか落ち着かせようと紅茶に手を伸ばした私に、リヴァイ兵長は薄く笑った。
「フッ。冗談だ。……面白いな、弱ったお前をいじめるのは。」
「……なんですか、そのドS発言……。」
ドSも俺様も間に合ってます。
お腹いっぱいです。
心に浮かんだ文句は、言えるはずもないけれど。
表情だけは隠し切れずに歪んでいるところだろう。
面白いオモチャを見つけたかのような、リヴァイ兵長の表情。
それが妙に、ジャンと被っていて怖い。
「……それにしても。」
お店に入って一時間くらいした頃。
追加で注文した魚料理を口に運んだリヴァイ兵長が、私の目を覗き込むように言う。
「アレは良くねぇな。」
「……はぃ?」
リヴァイ兵長が言う「アレ」に心当たりが見つからず、私は首を傾げた。
紅茶を一口、喉に流し込んだリヴァイ兵長は、また上半身をぐっと寄せて口を開いた。
「あれだ。マレーネが言ってただろ?"美咲ちゃん"って……」
「あー……」
その事か、と納得するより、どうしてそれが、"良くない"のかと疑問に思った。
けれどその答えをすぐに思い付き、俯きながら返事を返す。
「そうですよね、上司から"ちゃん"付けなんて。もっと立場を改めます。」
新兵の私なんかがあの場にいただけでも、おかしいのに、"美咲ちゃん"なんて呼ばれてるのを見たら、確かに否定したくもなるだろう。
うんうん、と頷く私に、リヴァイ兵長は身体を起こして苦笑した。
「違う、そうじゃない。」
「へ?」
そこで切って、伏せている目を上げた。
真っ直ぐな視線が、私に刺さる。
リヴァイ兵長の瞳に何か、熱のような物を感じて、ドキドキしてしまう。
目だけで私の体温を上昇させたリヴァイ兵長は、ふぅ、っと少しだけ大きく息を吐いてから言った。
「マレーネに"美咲ちゃん"なんて……呼ばせていた事だ。」
「……え?」
「見合いのノリで呼ぶようなやつじゃねぇか。」