第16章 小さなシアワセ雨のせい?
こりゃ酷ぇ雨だ。
ハンジさんの書斎に向かう美咲とは途中で別れ、もう俺の部屋は目前に迫っていた。
昨日までとは違い、心はなんだか天気とは裏腹に、晴れやかなものに変わっている。
……朝の時間を一緒に過ごすっつーのも、いいな。
夜の時間の甘さとはまた違う、ホッとするような雰囲気。
じわじわと実感するような、何気ない幸せが、小さく積み上げられていくような。
あれがもし、日常になったら、どんな感じなんだろうか。
朝、目が覚めたら美咲がいて。
「おはよう」って言い合って、兵団の食堂ではなく、二人だけで一緒に飯食って。
同じ部屋にいながらも、違う行動で支度を済ませて。
「そろそろ行くぞ。」なんつって、二人で部屋を出る。
……想像してみると、顔が緩んでいくのを止められなかった。
そんな幸せな日常が叶えばいいのに、な。
そういう時間を、一緒に積み重ねていきたい。
堪え切れない笑みを必死に噛み殺して、自分の部屋に入る。
いつも通りの空気が流れる、同じ作りなのに全く違う、俺の部屋。
同じ配置のベッドと机だが、そこに温度は感じられない。
一気に、現実に引き戻された気分だ。
「……突っ走りすぎだ。」
想像だけで盛り上がれてしまう自分がおかしくて、小さく笑ってしまう。
まるでガキん頃に戻ったみたいだ。
ウォール・マリアの壁が破られて以来は現実を見て、冷めた子供にはなっちまったが、それでも自分の中に広がる想像の世界に、ワクワクしていた頃の事。
「……さて、準備するか。」
感傷的な自分を頭の隅に追いやり、新しいシャツを出した。