第11章 距離が縮まるアイツとあの人
コンコン。
資料を整理していたハンジさんの書斎に響く、ノックの音。
返事をする前に開いた扉に視線を向けると、多分、今しがた帰って来たであろうジャンが立っていた。
「美咲、今日は?」
「無理。これ、絶対夜中までかかる。」
「そうか。じゃぁ、お疲れ。」
ジャンから視線を手元にあった書類に戻し、ひらひらと手を振った。
時刻は午後9時過ぎ。
書斎から場所を移動して、新しく壁の設計計画を始めたハンジさんとモブリットさんの姿はなく、ここにいるのは私一人。
ジャンが声を掛けて来たという事は、近くに人がいないからだろうと、特に周囲に気を使うこともなく、会話を交わした。
パタリ。
ドアが閉まった音に、再び一人だけになってしまった寂しさが込み上げる。
私もみんなと一緒に活動していたい。
命がかかっていると言っても、私も104期なのだから。
だからと言って、ハンジさんから特別に受けた仕事を投げ出すわけにもいかない。
みんなと対等に戦える様になるために。
みんなと同じくらい、頼ってもらえるようになるために。
暗い気持ちになろうとしていた私の耳に、再びドアが開く音が聞こえた。
「……一人か?ハンジの野郎はどこに行った?」
胸がドキドキするような低音に、思わず手元の書類を落としてしまいそうになったが、なんとか持ち堪え、声を掛けてきたリヴァイ兵長に振り向く。
「ハンジさんなら、研究スペースにいると思います。」
「そうか。……お前、今日は忙しいのか?」
「あ……え、っと、はい。深夜になりそうです。」
ジャンに答えたのと同じ台詞。
悔しい気持ちを抑えて答えた私を、リヴァイ兵長はどう見ただろうか。
「そうか。無理はするな。また誘う。」
少し分かり辛いけど、優しい言葉。
リヴァイ兵長らしいな、なんて思う。
……とはいえ、今はそんな乙女な事を考えている暇はない。
「すみません。次は是非。」
書類が見やすいよう、机いっぱいに広げる私を見て、リヴァイ兵長は書斎の扉を閉じた。