第10章 揺れた瞳はダレのせい?
翌日、エレンの硬貨で作る計画の、ハンジさん曰く“地獄の処刑人”の壁の上で、コニーと作業に取り掛かっていた俺の元へ、美咲が声を掛けに来た。
コニーに話し掛けている姿を見ても、昨日より随分と表情が明るい。
些細な変化かも知れないが、顔色も良くなっているように思う。
「よう。ゆっくり寝たか?」
そう声を掛けると、美咲は少しはにかんだような顔で、笑って。
「……おかげさまで。」
「ん。なら良かった。」
何の事なんだ?と質問を投げかけるコニーを無視し、壁の中腹辺りにいるエレンを見下ろす。
……しっかりと睡眠は取れたみたいだな。
ちょっと無理してでも、行ってやれて良かった。
安心した俺は、自分の仕事に取り掛かる。
今日の昼間は、美咲も壁の上で作業するらしく、運べそうな機材を上げ下げしていた。
俺は、目の前に山積みされた丸太を、ロープで何重にも巻いていく。
キツく巻かないと後で取れちまう。
完成の形はまだ見えないが、ハンジさんの案だ。
何か策があるんだろう。
そう決めて集中を進めていたら、あっという間に太陽は真上に来ていて。
さすがに肩が凝って来て、座り込んで休憩していた俺の耳に、ハンジさんの声が飛び込んで来た。
「美咲ー!あの資料、やっぱり少し確認したいところがあるから、エルヴィン達と見てもらってもいいかなぁ?」
その言葉に、思わず美咲の方を見た。
……が、彼女はピクリと肩を震わせて。
「……は、い。分かりました。」
俺の方を、一度も見なかった。
それはもう、不自然な程に。
ざわざわと、心に何かが忍び寄るのを感じる。
エルヴィン達、その言葉に、こんなにも嫌な気持ちになるのは、きっと“あの人”がいるからだ。
……リヴァイ兵長。
美咲の、憧れのヒト。
資料も、エルヴィン団長“達”と見るのか?
そうなったら、接点とか……
あったりしねぇよな。
……考えたくねぇ。
そう心の中で呟き、嫌なイメージを頭から追い払うべく、作業に再び集中した。