第9章 思わぬ誘いと憧れのヒト
アニが巨人化するなんて、信じたくなくて、私は後ろから拘束する役割を買って出たんだけど。
アルミンの煙弾が打たれても、路地の外に出る事が出来なかった。
……ただ、見てた。
強い風圧と、巨人化するアニの姿を……
現実を受け入れる前に、拳サイズの石が飛んで来て、そのまま意識を失った。
……情けない話だ。
みんな必死に戦っていたと言うのに、私は意識を飛ばしていた。
ライナー達が去っていった事も、意識を取り戻してから知った事だった。
ヒストリアとエレン奪還の時に、リヴァイ班に入れてもらえなかったのも、それが一つの原因だろう。
私も同じ104期にも関わらず、なのに、でもそれは多分、私に現実を受け入れる覚悟と勇気がなかったから。
私は何も為したことが、まるでない。
小っぽけな兵士だ。
みんなが、大変だったと知ったのも、ヒストリアが王妃に即位する直前に、コニーとサシャから聞いた。
私だけが前に進めていない。
現実を受け入れる勇気があれば……
もしかしたら。
なんて後悔は遅い。
だから、ハンジさんに指名を貰った時は本当に嬉しかった。
……仕事は雑用ばかりだけれど。
「あー。そう言えば、リヴァイが美咲に明日の夜8時に、この前の店の前に来てくれってさ。」
「え?あ、はい。」
「何かなぁ?もしかすると、もしかして、デートなんかだったりして?」
ハンジさんが顕微鏡から頭を上げて、悪戯っぽく笑った事に、恥ずかしくなって、私はぶんぶんと頭を振る。
で、デートなぞ、私にはそんな響き勿体無さすぎる。
だって相手は、あのリヴァイ兵長だから。
「ちょっとした御飯ですよ。からかわないで下さい。」
赤くなった顔を見られたくなくて、私はハンジさんに背を向けて、研究結果や巨人の生態が載っている本棚の整理を始めた。