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天才のオレに惚れなさい

第2章 天才と席替え



 ある晴れた日、オレのクラスは席替えを行った。梅雨も明けたので気分転換、とのことだった。
 仲のいい友だちと離れたくないとか、かわいい女子の近くに行きたいとか、そんなこんなで教室はずっとザワついている。

 オレは別に誰が横だろうが前だろうが後ろだろうが、どうでもよかった。
 だから新しい自分の席に座った後は、他のヤツの席なんか全く確認しないで、昨日買った文庫本を読んでいた。
 赤坂は「お前マイペースすぎ」とオレに言い残し、席を移っていった。


「伊豆くん、よろしくね」

 右の方から聞き慣れた声がした。
 本から顔を上げると、桃浜が持ち前のやんわりした笑顔でオレを見ていた。
 オレの右隣の席は彼女に決まったらしい。

「ああ…桃浜か。よろしくな」
「ねえ、それ、何読んでるの?」
 桃浜はオレの持つ文庫本を見て言った。

「これか?『赤いタヌキの殺人事件』ってヤツだよ」
「ミステリ?伊豆くんってそういうのが好きなの?」
「別に特別好きって訳じゃない。たまたまだ」

 本を読むのは好きだった。読んでる間は退屈しないからだ。
 ジャンルなんか何でもいいから、目についた本を適当に買って読むのがオレのやり方だった。

「私もそれ、読んでみようかな。普段ミステリってあまり読まないけど」
「そうか?じゃあ放課後にでも貸してやるよ。すぐ読み終わるから」
「え?でもそれ、まだ読み始めたばっかりじゃないの」

 オレの手が今開いているのは、本の3ページ目くらいだった。

「この程度のページ数なら、多分昼休みくらいには読み終わる」
「本読むの速いんだ」
「ああ、まあな」
「やっぱり天才なんだねえ」
 桃浜は目を細めながら言った。

 本を読む速度と天才って、関係あるか?
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