第7章 天才と変化
ブレザーを羽織り、机の上の通学カバンを肩にかけ、オレの方を振り向き、桃浜は口角をつり上げた。
「私より上を行く伊豆くんが嫌い。私をみじめな気持ちにさせる伊豆くんが嫌い。私のプライドを傷つける伊豆くんが嫌い。何をしても私に勝っちゃう伊豆くんが嫌い。天才の伊豆くんが、だいっ、嫌い」
そう言う桃浜の笑顔は、見たこともない歪みをたたえていた。
「でも、ふふっ…」
桃浜は紅潮した頬に手を当てると、オレに見せつけるように、色っぽく腰をよじった。
「今日は初めて、伊豆くんに勝ったかも」
それだけ言うと、ヒラリと身を翻し、「後はよろしく」と言って、教室から出て行った。
踊るような足音が廊下の向こうからしばらく聞こえていたけれど、やがてそれも遠くに消えた。
後に残されたのは、やりかけの製本作業と、バカみたいに股間を晒して立ち尽くすオレだけだった。