第7章 天才と変化
静かな小会議室の中で、パチンパチンと、ホッチキスの音だけが鳴っていた。
「ああ〜…ちょっと疲れたね」
桃浜は少し背を反らせてのびをした。
こら、そんな姿勢してたら胸が目立っちゃうだろ、おっきな胸が。
「ねえ、休憩しよ」
桃浜は椅子から立ち上がると、部屋の前方へ歩いていった。
この会議室は黒板じゃなくてホワイトボードが設置されている。
桃浜はキュッとマーカーの蓋を開けると、ウサギなんだかクマなんだか、なんだか分からないような落書きをしていった。
「これなんだかわかる?」
ボードに顔を向けたまま、桃浜はオレに問いかけた。
「…クマ?」
「あたりー。さすが天才だね」
桃浜はホワイトボードの縁に手をかけ、少し腰を突き出しながら落書きを続ける。
やたらと手を伸ばしてボードいっぱいに絵を描く桃浜。
手の動きに合わせて動く腰つきが少しなまめかしく感じた。ユラユラと揺れるスカートから目が離せなくなる。
オレは席から立ち上がった。
「これはなーんだ?」
桃浜はオレに背を向けたまま尋ねる。
「亀」
「また正解。次はもっと難しくしようかな。天才様だから大丈夫だよね」
オレは一歩一歩、ゆっくりと桃浜に歩み寄る。
「じゃあ、これはなんでしょう!」
「桃浜…」
えっ、と桃浜が小さく声を上げた。
気がついたら、オレは桃浜を後ろから抱きしめていた。