第5章 天才と国語のテスト
次の授業が始まる少し前に桃浜は戻ってきた。
オレはもう一度謝ろうと思ったが、それより先に桃浜に「さっきはゴメンね」と謝られた。
「ちょっとビックリしちゃって。伊豆くんにあんな風に言ってもらえると思ってなかったから」
そう言う桃浜の顔は、普段と同じように笑っていた。
「いや、オレの方こそ、なんか無神経だったな」
少しホッとしてオレは答えた。
「ねえ、伊豆くんは、私と点数比べするのイヤだった?」
「イヤじゃないぞ、別に」
「じゃあ、これからも続けていいかな?」
「ああ」
桃浜は大げさに喜んだ。
「よかったあ!私はねえ、次こそ伊豆くんに勝とう!って思うから、勉強とか色々がんばれるんだよ」
「そうなのか」
「うん、そうなの。でもさっき伊豆くんに、勝ち負けなんか気にするなって言われたから、こんなことでやる気出してる私がバカなのかなあって、ちょっと落ち込んじゃって…」
「そうだったのか。いや、桃浜がそれでやる気出るなら、いいと思うぞ」
「そう?伊豆くん、私に呆れてない?」
「呆れてなんかないさ」
オレは桃浜に笑いかけた。
桃浜もオレに笑顔を返してくれた。
授業が始まるまでの少しの間、オレたちは互いに笑いあっていた。