第5章 天才と国語のテスト
「1点だけ負けちゃった」
制服が冬服に切り替わってきたある日、桃浜は国語の答案を見ながら言った。
今日も今日とて点数比べをしている。
「天才はいいなあ」
ゆるやかに笑いながらそう言う。
いつも通りの彼女の顔を見ながら、オレはずっと前から思っていたことを、その時はじめて口にした。
「桃浜だってすごいだろ」
彼女の肩がピクリと揺れた。
「桃浜だって他のやつよりよっぽど頭いいし、運動もできるじゃないか。いつもいつも、オレと比べる必要あるか?オレに勝ちたいみたいなこと前に言ってたけど。勝ち負けなんてそこまで気にすることないだろ。桃浜は十分すごいよ」
オレとしては、桃浜を褒めたつもりだった。
でも桃浜は、思いっきり眉間にシワを寄せた。
口をギュッと一文字に結んでオレをにらむ。
あ、やばい。もしかして怒らせたのか?
「すまん。何かイヤだったか?」
何でそんなに怒っているのかよくわからなかったが、オレはとりあえず謝った。
桃浜は黙ってガタンと席を立つと、オレを無視して教室を出て行った。
追いかけるのも何か違うと思ったから、オレは桃浜が見えなくなっていくのをただ見ているしかなかった。