第4章 天才と休み時間
「…で、桃浜は勝てたのか?」
「伊豆くんって、指長いね」
「ん?」
「指が、すごく長くてきれい。しなやかって感じ」
手相の話どこ行ったんだよ。
「私の指、短くて丸っこいんだよね」
そう言いながら桃浜は自分の手を広げてオレに見せた。
確かに短くて丸っこい。
そして、ソッとオレの手に自分の手を重ねてきた。
「私、この指嫌いなの。伊豆くんみたいなのがよかった。天才は指まできれいなんだね」
手のひらに桃浜の熱が伝わってきた。
柔らかい。
球技大会で抱きついてしまった時の感触が、オレの脳に蘇る。
小柄な桃浜は、手もオレよりずっと小さくて、思わずそのまま握りしめてしまいたいような気持ちになった。
少しだけ心臓がうるさい。
「桃浜の指、かわいいと思うぞ」
はや鳴る鼓動をごまかすように、オレはそう言った。
桃浜が目を丸くしてオレを見た。
何か言われるかな、と思ったが、ちょうど授業の始まるチャイムが鳴ったので、桃浜はサッと手を引っ込めた。
そうして何事もなかったかのように、机から教科書を取り出し始めた。
だからオレも黙って前を向き、教科書とノートを机に出して、普通に授業を受けた。