第1章 三角形 case1
すぐに空いてしまったグラスを静かにテーブルに戻す。
「…同じのでいいの?」
私の空のグラスを持って京ちゃんが立ち上がった。
もういいよ、とは言えずに頷いて返す。
ほんの1、2分の間、黒尾さんと二人きりだ。
「…あの、さっきは生意気な事を言ってすみませんでした。」
本当は謝りたくない。
だって、私は悪い事をしたと思ってないから。
でも、こんな事で嫌われたら合宿とかやりづらくなる。
「…小熊、本当に気付いてねーの?赤葦が何時も誰を見てるか、誰を好きなのか。
最近、やたらと連絡取ろうとしてる俺が誰と話したいのか、誰を気にしてるのか。」
長い溜め息、完全に呆れたような声。
気付かない事にここまで呆れられてしまうなら、私も知ってる、近しい人なんだろう。
梟谷のマネージャーかな。
でも、京ちゃんってどっちの先輩をよく見ていたっけ。
私とばかり一緒にいるから分からない。
こんなに近くにいるのに、好きな人すら知らない。
色々と考えて眉を寄せた。