第6章 ※‐case3‐ending.※
「…私、仕事辞めていい?」
「お前って専業主婦ってタイプじゃないよな?」
絨毯の上で寝転がり、落ち着いてきてから、最初に交わす会話に色気はない。
不思議そうな顔をした秋紀が私を眺めている。
理由を、話して良いのか分からない。
まさか、リエーフが仕事で関わりのある人間だなんて言いたくはない。
「…別に、さくらの好きにしたら良いんじゃね?結婚に憧れ強かったんだから、寿退社にも憧れてんだろ?」
迷っていると気付いたのか、決定権を私にくれた。
多分、秋紀は分かってる。
私が寿退社に憧れてるだけなら、口に出すだろう事も。
言わないのは、私とって触れたくない理由があるという事も。
だから、敢えて触れずにいてくれた。
本当に私をよく分かってくれている。
「秋紀がイイ男過ぎて辛い…。これじゃ、モテて当たり前か…。」
「何?今更気付いた?」
漏れてしまった本音を拾って、冗談混じりの声が聞こえた。
こういう時、ふざけて話を暗くしないのも、いい所、なんだろうな。
秋紀が良い男だと自覚すると、浮気も仕方がない事だと思えてきて落ち込む。
不意に、首の下に腕が通って抱き寄せられた。
「あのな、俺がどんなイイ男だろうが、モテようが。俺には、さくらしかいねぇんだよ。
他には、いかねぇから。少しは信じて?」
軽く唇が触れ合う。
すぐに離れて、至近距離で私を見詰める秋紀は真剣な顔をしていて。
一度は浮気されるのが怖くて、信じられなかった秋紀を、今度こそ信じてみようと思った。
case3‐end.‐