第5章 ※三角形 case3※
リエーフの唇が弧を描いて、首筋に触れる。
軽いリップ音を立てながら少しずつ下に向かって、胸元に到達した。
そこで肌から一旦離れ、目を合わせてくる。
「キスマーク、付けていいか?」
オヤツを欲しがる子犬のような、オネダリをする顔に負けて流されそうになったけど。
肌に証拠を残されるのだけは嫌だ。
「…だ、だめっ!」
一瞬でも許そうとした考えを払うように頭を振り、手でバツを作って胸を隠した。
「えーっ!いいだろ?だって、木葉さんに気付かれなかったら意味ないんだから!」
バツの形に重ねていた手が緩む。
大きく、勢いのある声の言葉が正論に聞こえたからだ。
秋紀を、傷付けたい。
それなら、浮気をしたと気付かれなきゃいけない。
歪んだ思考が頭の大半を占めて、自然と唇が笑う。
身体を少し起こして、自らブラウスとブラを脱ぎ落とし、上半身を晒した。
頭に腕を回して、抱え込むように胸へと引き寄せる。
「付けて、いいよ。ブラウスから見えちゃうトコは、止めてね?仕事行けなくなっちゃう。」
「行けなくなったら、俺が食わせてやるよ?」
「浮気相手に食わせて貰う気は無いかな。」
秋紀と別れない限り、リエーフとは浮気にしかならない。
だから、さりげなく拒否をした。
一瞬だけ、リエーフの眼が獣みたいに鋭くなって、皮膚に走る痛み。
「俺に本気になれよ。」
腹の奥底から出てきたような低い声が聞こえて。
この瞬間だけ、リエーフが猛獣に見えた。