第9章 其が願いしもの
「最後によろしいか。あの出城、見るからに準備不足が伺えた。どういうことだろうか?」
山田が問う。
「いえ、あの城はあれが全てです。元々忍術学園の皆さんを誘き出すだけの城でした。捕らえるのは学園の中の誰でも良かった。ただ、私が椿様に接触したことが桧山にとっては誤算だったのです。……桧山はあの時、私を自分の手で始末した後、溜め池のカラクリを作動させるつもりだったと思います。土井殿のお陰で被害を出さずにすみました。感謝申し上げます。」
神室は土井に頭を下げる。
「いえ、神室さんのご協力で我々も難を逃れました。ありがとうございました。」
「…あなたはそれを知っていたから、私に逃げるよう言ったのですか?」
利吉が愁に問いかける。愁は気まずそうに利吉から視線を反らす。
「俺は……過ちを犯したから……あんたたちが犬死にするのは見たくなかった…」
「さっきも言ってましたが、あなたの言う過ちとは何です?」
「それは……」
神室が愁を庇うように間に入る。
「申し訳ない。それはこちらの問題です。ご勘弁を。」
「………」
利吉は腑に落ちないようだったが、それ以上口は出さなかった。
出城を破壊しつくした大蛇の勢いはもうなくなっていた。
水量は少しずつ落ち着いてきている。
ここも本来の姿に戻るのだろう。
「土井殿、山田殿、これで竹森が忍術学園に攻め入ることは当分ありません。あとは隆光様とともに隆影様の説得にかかります。」
「若様の計らいに期待しますよ。」
神室は少し笑ってみせた。
「では、我々は帰ります。どうか椿様のこと、宜しくお願い致します。」
「我々も忍術学園へ戻り、学園長へ報告させて頂きます。」
神室は深々と一礼すると背を向け、仲間たちの元へ向かった。
愁は神室に駆け寄る。
「神室さん…」
「愁、椿様は私に死ぬなと仰られた。私たちの罪をお許しくださったんだ。」
「しかし……」
「それにお前は桧山の命令をきいただけだ。全ての元凶は奴にある。椿様に対して自責の念が残るならば、あの方が望まれたことをお前が叶えるんだ。」
神室は愁に向き直り、肩を叩く。
「これからは隆光様をお守りするぞ、私と一緒にな。」
「!!…はい。」
神室は桧山を連れ、竹森城へ足を向けた。