第9章 其が願いしもの
救出組が学園を出発してから丸一日が経った。
忍術学園自体が驚異に晒されることはなかったが、生徒たちは交代で見回りを続けていた。
もうすでに辺りは闇に包まれている。
深い黒の世界は、生きるものをその孤独の中へ手招きしているようだ。
不安に押し潰される、だが今は信じて待つしかない。
異常なし……と、滝夜叉丸はこちらへ向かう見知った姿を見つける。
「七松先輩!!」
小平太へ近づく。その背には意識のない様子の椿。
帰ってきたことに安堵しつつも、その様子に滝夜叉丸は困惑する。
「椿さん!?どうしたんです!?」
はっとして後方を確認すると、ふらつきながらついてくる乱太郎と伊作の姿もあった。
「滝夜叉丸!門を開けろ!それから新野先生を呼んでくれ!」
「は、はい!」
滝夜叉丸は学園へ戻ると、救出組の帰還を知らせる。
生徒たちが集まり、滝夜叉丸に呼ばれた新野が顔を出す。
「新野先生!椿ちゃんを保健室へ!」
追い付いた伊作が新野に椿を託す。
椿の状態を瞬時に把握した新野は、小平太とともに彼女を保健室まで運んだ。
「伊作!何があった!?」
「文次郎……ごめん!説明は後だ!」
伊作は他の保健室委員を集め、新野の後を追う。
意識のない椿を背負った小平太、伊作、乱太郎だけが帰ってきた。
何かが起きたのは間違いない。
言い様のない不安が広がっていた。
数刻経った後、残りの救出組も全員無事に戻った。
誰もが疲労困憊の様子だったが、口を開けば出てくるのは椿を心配する声ばかり。
当の本人は新野、伊作と共に保健室に入ったまま。
乱太郎と左近が湯を沸かしに出入りするだけで、とても状況を聞けそうにない。
山田、土井は他の教師を集め、学園長へ報告に向かった。
六年生は自然と留三郎の部屋に集合し、伊作が戻るのを待つ。
文次郎は他の六年生から話を聞いて、信じられない思いでいっぱいだった。
「……あいつが、竹森城の姫君……」
「そして本当の狙いは忍術学園だった、と。」
小平太も神室の話は今、仙蔵たちから聞いた。
「なあバレーをやった時、椿が泣いたの覚えてるか?」
「ああ。」
留三郎の言葉に一同は頷く。