第9章 其が願いしもの
「こう言ってはなんですが、若君は信頼できるお方で?」
「はい、隆光様が椿様に危害を加えることは決してありません。お二人は幼少の頃より大変仲が良く、今でも隆光様は椿様を気にかけておいでです。私は、城主こそ隆影様ですが隆光様にこそ仕えたいと考えています。」
山田と土井は顔を見合せ納得する。
「しかしどちらにしても、今は彼女をあなたには渡せません。」
口を挟んだのは仙蔵だ。神室は仙蔵に目を向ける。
仙蔵は神室を敵視しているようだった。
「彼女はこのまま忍術学園で預からせて頂く。傷付けたのがあなたのせいだと言うなら、私はあなたを許すことが出来ません。」
「仙蔵…」
周りを見回すと、生徒の誰もが神室に厳しい目を向けていた。
だがそれも全て椿を思ってのこと。神室は生徒たちが頼もしく思えた。
「今回は手を引きます。この御髪を隆光様に届けなくてはなりません。椿様は忍術学園に手を出すなと仰られました。隆光様ならきっとわかってくださいます。」
「…それが叶わぬ時は?」
「命を掛けて椿様をお守り致します。」
仙蔵はその返答に口をつぐんだ。
心の隅では神室を信じようとしたのだ。
「おじさん!」
それまで話を聞いていたきり丸が神室の元へ駆け寄る。
「頼むから!これ以上椿さんを一人にしないでくれよ!俺知ってるから、一人で生きていく辛さを!頼むから椿さんを助けてよ!…お願いだから…!」
きり丸はぼろぼろと涙を流して泣いた。
神室はきり丸の身長に合わせるようにしゃがみこむと、あやすように頭を撫でる。
「約束する。私も椿様には、もう逃げることなく幸せに生きて欲しい。それにもう一人じゃない。こんなに想ってくれる君がいる。ありがとう、椿様のために涙を流してくれて。」
きり丸は頷く。土井はその小さな体を抱き締める。
自分も同じ思いをした。
きり丸の言葉は、土井の思いそのままだった。