第2章 番う狼の話
私は闘うのが好きだ。そう育ったからではない。血がそうさせる。
闘う事は必ずしも血を見るものではない。
高らかに抗う事でもない。
屈しない事、己を見失わない事。
そして、大切なものを守る事。
攻撃は最大の防御だ。これは私の生き方そのもの。
そうであれば良いと思って努めている。
雪が地にしがみつく事も叶わない、風が強い北方の国が私の領土だ。
厳しい気候は国に恵みを齎しはしないが、我慢強く屈強な民を育てる。誇らしい北の民は逆境にあってこそ尚高く顔を上げるのだ。
私の国は男も女もない闘士の国だから、皆が平等だ。素晴らしき我が故国。
私の名は狼娘。
狼の母という名を持ち、闘いの国を治める一代限りの国母。
民は私の子供、凍った大地を蹴立たてて闘う誇り高い狼だ。私の傍らにある国父たる月狼もまた生粋の狼だ。私達は強い。
強いからこそ、驕らない。高ぶらない。それが矜持だ。枷と言ってもいいかな。私たちが自らに課した枷。実際私たちは本当に強いからな。自重しない事には他国を呑みかねない。
誇大と思うか?
それもまあ構わない。北の剣戟を知らぬものが不用意な真似をして火傷をしたとしても、それは我の無知の招いた災厄だ。打たれた犬は二度は唸らぬ。
そして私たちは、愚かな犬の二度目の唸りは聞かない。そういう事だ。
わかるかな?