第1章 駆ける兎の話
何処までも行けそうな自由な心地に気持の良い風。
この風は私の起こす風。
香国や、知香、狼娘、沈梅に他の姉妹、兄弟、小さな落ち着く室とひんやりした回廊、朝の間、昼の間、夕の間、雨の日に学んだ座室、晴れの日に励んだ四阿、四季折々の園庭、お父様。お母様。
皆々、後ろへ流れて行く。
でも、私が皆を置いて行く訳じゃない。
皆がそれぞれの場所に駆けて行く。それだけの事。
そして、私の傍らには蜂恵。同じ場所へ駆けて行く相手。
私は兎速。
生国へ駆ける。裸足で蜂恵と。
ずっと走る。土に着くまで。土に着いても。
何があっても足は止めない。
兎は駆け続けるものだから。