第1章 駆ける兎の話
生まれは、と聞かれたら、私は土と答える。
皆妙な顔をする。
それから、取り繕うように笑いながら名を問うてくる。
兎速。土の国の兎速です。
名乗ればますます相手は困惑してしまう。土の娘の名の、その響きの土臭さに。
兎速(トゥクァィ)は土塊(トゥクァィ)と音が似過ぎている。
この国では土泥は忌み物だ。
天子の治める国民に土に係る者は居ない。属国に貢がせて雅やかな器を使い、穀物や野菜を口にする。土はその属国の中でも最も穢れた土泥に深く関わる国。
土を忌む香国で皇女に生まれついた私は、穢れた土に帰る。
帰って婚礼を上げ、婿がねと共に土を治世する。土で初めての王になるのだ。
そんな私の、これは香国で過ごした最後の七日間のお話。