第2章 目が覚めると
少女のお付きの人はすぐに見つかった。どうやらあちらも探していたらしく、少女の名を呼びながら駆け寄って来る。
『百(もも)お嬢様!あぁ、良かった…この爺、一生の不覚です。まさか敵(ヴィラン)なんぞにお嬢様を攫われるとは…』
話を聞いてみると、この少女…もとい百(もも)ちゃんとお付きのお爺さんは二人で買い物をしている時に、突然目の前に男性が現れて、手から出した炎で二人を怯えさせると、あっという間に百ちゃんを攫っていったらしい。後は冒頭の通りだ。
「警察やヒーローの方々に話を聞いてみますと、どうやらあの男は新人ヒーローだったらしいのです」
『ヒーロー…“だった”?』
「はい。最初の頃こそは活躍していたものの、だんだん自分を見てくれない市民達に嫌気が差したのか…敵(ヴィラン)に寝返り、自分に再び注目が集まるようにしたかったのだとか」
『…』
正直、馬鹿みたいな話である。いくら活躍していても、人は飽きる生き物。いずれ次の物事に注目していく。自分の事を見て欲しいなら、その分自分で努力すべきだ。
「この度は本当にお世話になりました。もし宜しければ、私(わたくし)の屋敷に来て下さいませんか?細(ささ)やかですが、お礼をしたいのです」
先程の男に対して嫌悪感を燻(くすぶ)らせていると、百ちゃんがそんな事を提案してきた。その誘いは大変嬉しいのだが…
『ありがとう。私にそんな素敵な誘いをしてくれて。でも、私は身元の分からない、いわば不審者なのよ?そんな人を自宅に招くのはオススメ出来ないな』
そう。私はついさっき路地裏で目覚め、この自体に気が付き、当然の事をしただけ。それに、ここは私がいた世界と明(あき)らかに違う場所だ。下手に動いても無意味だろう。
百ちゃんにお礼と謝罪を述べ、考え事をしていると、横で見守っていたお爺さんが口を開いた。
「お嬢様と同い年の身でありながら、そこまで深く考えてくださるとは、とても悪人とは思えませんぞ。それに、この爺の経験から言わせてもらいますと…貴女のような若く聡明な人は決して不審な真似はしないものです。」
お爺さんの言葉に唖然としていると、私を納得させるかのように続ける。
「どうか、お嬢様の誘いを受けてくれませんか。お嬢様には、同い年の友人がいないのです。それに、貴女ような方にこそ、屋敷へ招待するのにふさわしい。」