第9章 初めての実践
「暁さん、大丈夫?顔色悪いけど…」
『…大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけだから』
教室に戻る途中、出久君に心配されてしまった。人の変化に気付きやすい彼ならば当然と言えば当然の気もする。
「やっぱり、さっきの治癒の力が…?」
出久君は自分を責めている様だった。確かに、私が顔色の悪い原因の大半は出久君の怪我を治した事だが、だからといって自分を責めるのはお門違いというものだ。
『出久君、こういう時はそういうのやめてほしいかな。私は出久君に自分を責めてほしくてやったんじゃないし』
「あっ、ご、ごめん…」
出久君はまた縮こまってしまった。この調子だと、また一言言っても堂々巡りになってしまう。
『(ううん、なんて言ったらいいんだろう)』
私は考えながら言葉を紡ぐ。
『出久君。私はね…というか、私個人の意見なんだけど…こういう時は「ありがとう」って言葉がほしいな。』
そう言うと出久君は顔を上げてこちらを見る。彼の目を見つめ返しながら、言葉を続ける。
『今、私がこうなってるのは自分の責任だし、出久君にはなんの責任もないの。それに、治癒の力を使った側の立場としては、謝られるより、お礼の言葉の方が嬉しい』
前の世界の時もそうだ。戦いや仕事で負傷した時、いつもウェンディやポーリュシカさんのお世話になっていた。それぞれ怪我を見た時の反応は様々だが、こちらを見て決して嫌な顔はしなかった。涙目で慌ててこちらに駆け寄って来たり、またはため息一つついて手招きされるか。
その時、私は決まっていつも「ありがとう」の言葉を贈るのだ。そう言うと二人も決まって嬉しそうに「いつでも治しますからね」「またおいで。いつでも観てあげるよ」と返すのだった。
この世界に来て、二人の気持ちが分かった気がする。怪我人を観て、治した時の達成感。お礼を言われた時の嬉しさ。この身になって充分に感じた。
そんな想いを込めて出久君に伝えると、彼はお礼を言ってくれた。少し、照れた顔で。
「…ありがとう、暁さん」
『どういたしまして。リカバリーガールの様にはいかないけど、いつでも観るからね』
そう言って二人で笑い合う。お互いの頬は赤く染まっていた。