第9章 初めての実践
「同じ様なの、どっかで見た気がするねぇ…」
リカバリーガールは思い出そうとしているのか、考え込み始めた。確かに、私は以前、今と同じ様に彼女の前で彼の治療をした事がある。
『多分、入試の時ではないでしょうか?その時も私、彼の治療をしてましたよ』
「あぁ、そうだったね。思い出したよ。珍しい“個性”を持つ子がいるもんだと、見てた皆が驚いてたよ」
『…皆?』
あの場にいた受験者の事だろうか。この世界では治癒系の“個性”を持つ存在は少ないと聞いたことがある。
そのせいで珍しく思われたのだろうか。
「…っ、うぅ…」
『!…出久君、大丈夫?私の声、聞こえる?』
「……暁、さん…?」
出久君は目覚めたばかりの様子で、少しボーッとして視線をフラフラさせていたが、治癒魔法が効いてきたのか、意識がハッキリし始めた。
「…えっ、暁さん!?こ、ここは…」
『保健室だよ。出久君、あの後倒れちゃったんだよ。覚えてる?』
「あ、うん…かっちゃんの攻撃を上に飛ばした辺りだよね、確か」
『うん。…良かった、頭に異常は無さそうだね。瞳孔もしっかりしてるし、特に問題は無いかな。…リカバリーガール、一応、彼の検査をお願いしてもいいですか?』
「あぁ、構わないよ。ほら、こっち向きな」
「は、はい!」
リカバリーガールが出久君の様子を見ている間に、左腕の治癒を終わらせる。完全にとはいかないが…明日には動かせる様になっているだろう。
『……っ…』
ヤバい。少しフラっとする。家まで帰れるだろうか。
けどこの場にいる人にそんな姿を見せる訳にはいかない。特に出久君なんて、自分を責めてしまいそうだ。
ふと二人を見る。
出久君には特に異常も後遺症も無いみたい。けど、リカバリーガールに怒られていた。「無茶し過ぎだ」とか「相手もやり過ぎだ」とか、そんなお小言が聞こえる。
『リカバリーガール、そろそろその辺にした方が…』
このままだと彼女の説教が下校時刻まで続いてしまう。そう思いリカバリーガールに声をかけると、渋々やめてくれた。次来た時が怖いな…
『出久君、一回教室に戻ろう。荷物取りに行かないと…立てる?』
「あっ、うん!大丈夫!」
二人でリカバリーガールにお礼を言って、保健室を後にした。私の体力、家まで持つかな…