第9章 初めての実践
『……っ…』
心臓が止まるかと思った。それ程、私には衝撃的な言葉だった。
『…わ、私はっ、…』
駄目だ。混乱して上手く言葉が紡げない。舌が回らない。
__ここに居てはまずい。
急いでその場から離れようとしたが、左腕を掴まれていて逃げる事も出来なかった。
混乱している私を落ち着かせようとしているのか、爆豪君は私の“個性”に違和感を感じた理由を語り始めた。
「複合型って聞いた時から何かあると思った。実際に、他の奴らより手数多かったしな。確信したのは“蜃気楼”の時だ」
『…え、』
私は戸惑った。“蜃気楼”という言葉には誰一人疑いの声も無かったのに、何故彼は…?
「“蜃気楼”っつーのは普通、大気の温度差が光の屈折を狂わせて起きるもんだ。轟の時みてぇにとはいかねぇが、ある程度の温度差は出る。でもあいつらは寒さなんて微塵も感じてなかった。しょうゆ顔はともかく、クソ髪野郎まで何も気づかねぇっつうのはおかしい」
『……(迂闊だった…)』
もっと注意を払うべきだった。自分が新しい道を歩む事に浮かれていて、自分の魔法に関して全く危機を感じきれなかった。
『……』
言うべき、なのだろうか。けど、信じてくれるわけが無い。「別世界から転生して来て、この世界を救いに来ました」なんて。
顔を上げると、彼の真っ直ぐな目と視線が絡み合う。
『(でも、いずれ…他の人達からも勘づかれるよね)』
私は自分を奮い立たせた。拒まれたのなら、それでいい。最悪の場合、「敵側」だと疑われて疎遠になるよりマシだ。
けど、どう切り出せばいいのだろう。
どこから?私がこの世界で目覚めた所から?
考える時間が欲しかった。
『…嘘、ついててごめん。確かに、私の力は…“個性”じゃないよ』
慎重に言葉を選ぶ。爆豪君予想してた通りの答えだったからか、特に驚いた様子も無い。そのまま大人しく私の次の言葉を待ってくれている。
『で、でも、皆を騙してたわけじゃないの。お願い、今は話せないけど…信じてほしい』
あぁ、また逃げてしまった。でも、どこかで仕方がないと思っている自分がいることも確かだ。
なにが「今は話せない」だ。自分の逃げ道を作りたかっただけだろう。
『本当に、ごめんなさい。でも、私は__』
「わーったよ」
『…え、』