第16章 戦いの後で
『………』
メイビスとの会話を終え目を覚ますと、私は再び横たわっていた。
状況を確認しようと思い起き上がろうとするが、首から尋常ではない痛みが迸(ほとばし)った為、身動きが出来なかった。
『(匂いからして病院だな…人の気配は遠いからここは個室か。首は死柄木弔の“個性”、体の傷はドラゴンフォースの反動のせいかな)』
こちらの世界で体を鍛えていたとはいえ、ドラゴンフォースを使うにはまだ早かったらしい。
ふと楽園の塔での出来事が頭を過ぎる。ナツがエーテリオンの結晶を食べた時。その肌に現れた鱗は正しく竜そのもので、初めてドラゴンフォースというものを見た時だった。
あの後ナツはしばらく動けない状態が続いた。恐らく慣れない体で無理した反動だろう。魔力の結晶という自分の属性と違う物を食べた副作用もあるのだろうけど。
前の世界で自分が初めてドラゴンフォースをしたのは竜王祭の時だ。
海竜王としての力を振るう為に魔力を解放したつもりなのだが、後から聞いた話だとあれがドラゴンフォースという現象らしかった。
『あの時はなんとも無かったのに…』
はあ、とため息をつく。自分が弛(たる)んでいる証拠だからだ。
本当にこの世界の“悪”“闇”を甘く見ていた。
“竜の王”と互角に戦っていたので、このままで大丈夫だと過信していたのだ。
自分の過ちと後悔に苛(さいな)まれていると、病室のドアが開いた。
「やあ。もう目が覚めたようだね」
『…根津校長?』
訪問者は雄英高校校長の根津だった。彼は八雲のベッドに近づきパイプ椅子に腰掛ける。
「あの中でこれ程の重傷者は君だけだよ。他の生徒や先生は一日安静で直ぐに動けるようになる程度だと言っていたよ」
『それは、良かったです』
首が痛くて思うように喋れない。なんとか根津の方を向きつつ返事をするが、彼は「無理しないでいい」と八雲の顔を上へ向かせ、楽な姿勢をとらせた。