第4章 インターハイ
その後、荒北はバスの中で一睡もできなかった。
できるはずもなかった。
ただボーッと窓の外を眺めて、できるだけ何も思い出さないようにした。今にも爆発しそうな大量の爆弾を膝の上に乗せているような気分だった。
学校に着いてから行われたミーティングの内容も覚えていない。ただ一刻も早く寮に戻り、穴があれば入りたいと思っていた。
そして今、荒北は布団という穴に閉じこもっていた。
いくら疲れていた、そして沙織だと知らなかったとはいえ、あの温かい心地に荒北は身体を預け、甘えた。
そして恐らく頬に感じたあのフワフワとした柔らかな感触は、、、
「女はやっぱり巨乳に限る!!」
待宮の言葉が火種となって、1つ目の爆弾が爆発した。
荒北は目を見開き、布団をはねのけ叫んだ。
「待宮ァア!!テメェ、この野郎!!テメェが変なこと吹き込むから俺は、、、ッ!!」
「こう、なんとゆーか、幸福感が違うんじゃよー」
自分の意思とは別に待宮の言葉とともに心地良い感触が蘇る。
俺は、、、確かに、幸せだったナ、、、。
、、、って何考えちゃってンの!?俺!!
死ぬ!?いっぺん死んだ方がいいんじゃナァイ!?
「、、、ッ!!」
荒北は倒れこむように床に膝をつき、頭を抱えた。
しかし一度爆発した爆弾は次へ次へと引火し、もう止めることはできなかった。あの時の記憶が凄まじい速さで蘇る。
荒北の顔にかかるサラサラの金髪。
ふわりと香るなんともいえない甘い匂い。
自分の名を呼ぶ沙織の声。
端正な顔からポロポロと流れ落ちる涙も、全部ハッキリと思い出した。
っつーか、夢だと思ってんだケド。
バカか、テメェ。本当に泣いてたのかヨ。
俺はテメェに笑ってほしくて走ってたつもりなんだケドナ、、、。
そしていくら夢だと思ってたとはいえ、自分が言った言葉も思い出す。
「綺麗だナ、、、お前」
「、、、ッ!!」
ボンッ!
一際大きな音を立てて、最後の爆弾が爆発した瞬間だった。
「もォ、、、マジで死ンじまえヨ。俺、、、」
今にも消え入りそうな声で呟いた。
そして荒北は力無く床に転がり、腕で目を覆ったが、
意識を失う直前に見た沙織の驚いた顔が荒北の目の前から消えることはなかった。