第1章 春はあけぼの
チャイムが鳴り、担任が入ってきた。さすがの沙織もこの時にはちゃんと起きていた。
そして担任が1人1人名前を呼び点呼をする。
「荒北!」
そう呼ばれると隣の黒髪男子はかったるそうに「ハァーイ」と返事をした。けだるい声と返事もそうだが、窓際に寄りかかったその姿はだらしがない。
こいつが荒北か、、、
沙織は自分と同じような評価をされている男が気になり、チラッと荒北と呼ばれた男の顔を見た。その目は細く鋭く、不貞腐れたその顔は、後ろから見た印象と違った。正直に言うと、ブサイク、そんな顔。
顔だけじゃなく性格も悪そうだ、そりゃ嫌われるな。
自分の事は棚に上げて沙織はそう思った。
ホームルームの後、今日はこれで終わりだという。
沙織は佳奈を待っていた。いつも帰りは佳奈と駅まで帰り、沙織はそのままバイトに行く。それがいつものパターンだった。
「沙織ちゃーん!」
息を切らして佳奈が教室にやってきた。
「おー、佳奈帰るかー。」
沙織は特に何も入っていない鞄を持ち上げて、佳奈の方へ向かった。
「それが、、、この後委員会があって、遅くなりそうなの。ごめんね、先に帰っててもらえる?」
「少しくらいなら待つよ?まだバイトまで時間あるし」
「それが、なんか図書室の古い本を整理するんだって!時間かかりそうなの」
佳奈はとても残念そうだ。
図書委員になったのか。うちのクラスの図書委員は誰だっけ?
そんなことを考えたが、大してホームルームの話を聞いていなかったので分からなかった。
「そっか!わかった!頑張れ!!」
「沙織ちゃんもバイト頑張ってね。帰り道気をつけて」
そう言って佳奈と別れた。