第11章 春は あけぼの
「、、、」
何も言わず荒北は沙織の胸元で捨て猫みたいにじっとしていた。
表情は分からない。
けれど背中に回された手にギュッと力が入るのを感じて、沙織は微笑んだ。
「荒北、顔上げて?」
「、、、何だヨ」
その顔が渋々上がった瞬間、沙織はその唇に軽くキスをした。
「「、、、」」
春の匂いを含んだ風がサラサラと頬を撫でる。
心地良くて懐かしい風だ。
驚いて見開いたまま固まっている荒北の瞳に言った。
「、、、一緒に帰ろう」
再び荒北の顔は真っ赤に染まった。
「、、、ッ!な、なーにが一緒に帰るだ、俺らの寮まですぐソコじゃナァイ!」
目を背けながら放たれる憎まれ口も今は愛おしい。
「じゃあ別々で帰る?」
「ンな、、、!」
愛おしくて、思わず意地悪をした。
「バァーカ!一緒に帰るってテメェが言ったんだろーが!、、、、、、だから、、、ッ、、、仕方ねェから、一緒に帰ってやる」
「え?何て?」
低い声でボソリと呟かれた言葉をわざと聞き返す。
「一緒に帰るっつったんだヨ!バカ!ちゃんと聞いとけ!」
「ぷっ!あはは」
「笑うな!さっさと帰んぞ!」
「だって、、、!あはは、苦し、、、っ」
「ほら!テメェ、早く帰って勉強すんだろーが!!」
「はぁ、、、あは。うん、、、好きだよ、荒北」
涙を拭いながら、言葉にする。
今、心からそう思う。
「ウッセ!恥ずかしげも無く言うんじゃねぇ!バァーカ!落ちろ、テメェなんか」
「本当だよ?」
「もういいっつってんだヨ!ボケナス!それ以上言ったらもういっぺん塞いでやるからな!その口を!!」
ずっと隣で。
これから先も私達はきっとこうしている。
毒を吐きながら自転車を用意する荒北の背中を見ながら、沙織はそんな気がしていた。
隣の彼は目つきが悪い fin.