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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第11章 春は あけぼの


外に出ると、持って出たマフラーが場違いなくらいに暖かな春の陽気だった。



「こないだまであんなに、、、」




寒かったのに。




いつの間に春になっていたのか。
その空気に触れて沙織は思わず呟いた。
見上げるとふんわりとした青に映える太陽の光はすっかり春のそれだった。



「天気予報とか見てなかったからな、、、」
トボトボと重たい足を動かしながら呟く。








あ、ヤバイ。









試験が終わる直前、マークシートの見直していて気がついた。


決して気を抜いていたわけじゃない。
むしろ手が震えるほど、緊張していた。
その感覚は昔感じてたものに似ているが、ただただ1人で突っ走っていたあの時よりも今の方が怖いと思った。



沙織の回答は途中で一行ズレていた。
気づいてすぐに書き直し始めたが、最後までは間に合わなかった。




それからの記憶はあまりない。



ただその時から分かっていたのだ、こうなることは。




『正直かなり厳しいだろ』

『無理だろ?今からじゃ』




これまで何度も夢の中で聞いたセリフが蘇る。




あれで受かっていたら、それこそ夢なんじゃないか。



ツンと痛みそうになった鼻の奥を自嘲気味な笑みでごまかす。



泣いたって無駄だ。
全て自分が悪いのだ。
誰も助けてはくれない。




「こんなに暖かくなるなんて知らなかった」




こんな陽気の中マフラーを巻いて歩く自分だけが、まるで冬に取り残されたみたいで。
機嫌よく歌う鳥の声に苛立つことさえできなかった。



寮から学校まではすぐ近く。
沙織はボーッとした頭で通り慣れた坂を登って、気がつくと校門が見えていた。



「あ。」



校門の前まで行って、沙織はピタリと立ち止まった。




時間はもう昼をちょうど過ぎた頃。
試験の結果報告に来た生徒はすでに報告し終わって帰ったのだろう。



誰もいない学校に、一際目立つ青い自転車が一台。






そしてそのすぐ後ろの木陰で、荒北が静かな寝息を立てていた。










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