第1章 春はあけぼの
翌日、沙織はカーテンの隙間から漏れる柔らかな日差しに目を覚ました。
自分を抱きしめる腕を少しずらして、おもむろに枕の下に手をやり携帯を探す。画面をつけると、5時を少し過ぎたところだった。
隣には静かな寝息をたてる巧がいる。その寝顔を見て、あの時屋上で眠る荒北の寝顔を思い出した。
ほんと寝顔だけは可愛いんだけどな。
「ふふっ」
沙織は普段のふてくされた荒北の顔も思い出し笑った。
布団に潜り込み、窓の外を眺めると、春霞にぼやけた箱根の山が見えた。
山の際を境に夜と朝の境界がある。紫から太陽の色に変わる瞬間。その色はみるみるうちに朝の白い光に包まれ、キラキラと眩しい色に変わった。
春はあけぼの
って誰が言ったんだっけ?
たしかに、その通りかもな。
アイツは、、、こんな景色の中、練習してんのかな。
そんなことを思って沙織は少しだけ笑い、再び目を閉じて眠りについた。