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隣の彼は目つきが悪い【弱虫ペダル】

第1章 春はあけぼの


春。箱根に新しい季節がやってきた。舞い散る桜の木の下で、新しい制服に身を包み、これから起こる様々な出会いに心踊らせ登校する新入生達。彼らの顔は一様に輝いている。
そんな中、沙織は1人あくびをしながら歩いていた。見慣れた道、校舎、この朝の眩しい光に、彼女の気分は全然盛り上がらない。
決して不機嫌なわけではないのに、誰もが彼女の周りを避けて歩くのにはわけがある。
規定の制服を着ていればその他は自由という校風の箱根学園にあっても、彼女の鮮やかな長い金髪、175センチの高身長、足首まではある長いスカート、そしてマスクでよく見えはしないが大きく少しつり目気味の瞳は鋭く、下級生だけでなく同級生達をも寄せつけない。
ただ彼女にとってそれは大したことではなかった。

「沙織ちゃん!おはよう!」
その小さな声は、ポンと肩をたたかれなければ気づかないほどだ。
「あー佳奈か、おはよー。」
「沙織ちゃん、またマスクつけてる。花粉だっけ、大変だねぇ」
そう言って岩元佳奈はニッコリと微笑んだ。
佳奈とは中学からの付き合いで、沙織にとって唯一の友達だった。沙織とは違い、大人しく小柄で優等生を絵に描いたような女の子。可愛い顔をしているのだから、そのダサイメガネをやめればいいのにと沙織は常々思ってはいたが、まぁ関係ないかと口に出すことはなかった。

「いよいよなっちゃったね、3年生。」
佳奈は少し緊張した面持ちだ。
「沙織ちゃんと違うクラスになるの初めてだから、緊張する。ちゃんと話せるかなー」
「別に無理して話す必要ないでしょ」

3年になるとクラスは理系と文系に分かれる。沙織は理系、佳奈は文系を選択したから、2人が同じクラスになることはない。
「じゃ、アタシ教室こっちだから」
「うん、また後でね!」
沙織は佳奈に別れを告げるとスタスタと教室に向かう。
「沙織ちゃん!」
佳奈に呼ばれ振り返ると佳奈が手を振っていた。
「お互い頑張ろーね」
そう言って佳奈はニッコリと笑った。

一体、何を頑張るのか。3年生になったからと言って今更頑張ることがあるのか、沙織にはよく分からなかったが、とりあえず手を振って答えた。
「おー」
それを見ると、佳奈は満足そうに微笑み自分の教室へ向かった。
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