第8章 秋は夕暮れ②
翌日。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ。
いつもよりも大きく足音を響かせて、荒北は教室までの廊下を早足で歩いていた。
「荒北くん!おは、、、」
「おっはー、荒北!何で昨日来なかっ、、、」
そう声をかけてきたクラスメイトの声も次々と無視した。
「な、、、なんか荒北。最初の頃に戻ったような、、、」
「う、うん。なんか今日怖いよね、、、」
そんな声も耳に入らなかった。
荒北の目にはだんだんと近づいてくる教室の扉しか入らなかった。
いや、扉を開けてその先にいるであろう金色の後ろ姿しか目に入っていなかった。
なぜなら昨日、巧と話して荒北は心に決めたことがあったから。
あの日、巧に頭を撫でられて幸せそうに笑う沙織を見てた時から何となく気まずくて。
沙織が屋上に足を運んでいるのは知っていた。
けれど荒北にはその後を追うことはできなかった。
本当はあの階段まで行ったんだ。
開ければその先に、アイツが待ってる扉を何度も見上げて。
本当はすぐにでも行きたかった。
本当は話したかったんだ。
本当はもっと近くで。
教室の端っこで、目の端で笑うアイツを見るだけじゃなくて、
もっと近くで
アイツの声を聞いて、
アイツの顔を見たかった。
アイツが笑う時、その隣に座ってるのはこの俺で。
そこは俺の場所で。
なのに
いちいちあの男の顔がチラついて。
今まで一体何の話をしてたのかも分からなくなった。
どんな顔してアイツの顔を見ればいいのかも分からなくて。
アイツを避けた。
荒北は教室の扉に手をかけた。