第7章 降伏
重苦しいパイプオルガンの音で目が覚めた。
ステンドグラスを通して差し込む朝日がカルナの白い頬に色を落として、とても綺麗だと思った。
「……ここ……教、会?」
「目が覚めたか、マスター」
冬木教会には聖杯戦争を見守る監督役がいて、不可侵の領域とされていた。とくに伝えてなかったがランサーはそれを知っていたのだろうか?
「拠点が更地になったのでここへ運んだ。傷の手当てもしたが痛むか?」
思い出したようにギリギリと痛む傷口と、重さを感じない右肩。
そうだ、私……。
私の右腕は、肩から10センチ程を残して無くなっていた。
「うん、これは結構……痛いや」
錠剤の痛み止めを飲んでも、叫び出したくなる程の痛みはすぐには消えてくれないようだった。
「新しい拠点、探さないとだね」
絶え間ない痛みから気を反らす為に語り掛けたが、カルナはじっと黙ったままだった。
「ランサー?」
「……マスター、この戦いから降りろ」
カルナは冷たく、そう言い放った。
「え、」
「マスターはこの戦いに相応しくない」
「何?弱い奴には従えないって言いたいの?魔術も戦闘能力も中途半端で片腕も失くしたマスターは足手まとい?」
「そうではない。マスターが危険を冒してまで望むものが俺とアルジュナの再戦など、おかしいと言っている」
「はァ?思い上がらないで、別にカルナの為じゃない!私は私の為に戦ってる!」
「それは本当か?」
その言葉に息を飲む。
カルナの瞳は揺るがない。正面から向かい合うのが怖くなるくらい、いつも真っ直ぐで正しい。
「嘘じゃない!そうでもして戦い続けないと、私は……私には何も残らないからッ」
家族を失った。生まれ育った街を追われた。この身の全てを捧げた復讐は果たせなかった。
積み重ねた研究成果は一晩で塵と化した。痛みだけを残し腕を失った。
それなのに、戦う理由まで奪うの?
「カルナ、私は……貴方の為にっ、戦い、たい……」
「マスター
……俺はそれを望まない」