第5章 空虚
真夜中を過ぎて、私達はやっと拠点に戻った。
直接戦闘した訳ではないのだが、かなりの魔力を持って行かれた私は電池の切れた機械人形のように仮眠用のソファに倒れ込んで目を閉じた。
しかし疲れているはずなのに眠気は一向に訪れる気配がない。
経験で知っている。こういう時は寝よう寝ようと考える程眠れなくなっていくのだ。
「ねぇ、ランサー」
私はすぐそばで霊体化しているであろうカルナに話し掛けた。
「裏切らないでいてくれてありがとう」
「礼など不要。オレにとってマスターに従うのは当然の事だ」
私が生きてきた世界では、人は自分の都合でしか動かない。
彼にとって当然なのかもしれないが、利益や不利益で動かない人間がいるというのは私にとって世界を揺るがすような衝撃だった。
そして私の世界を揺るがす出来事はもう一つあった。
「今まで憎んで憎んで憎み続けたアトラムが死んだのに、ちっとも嬉しくないんだよ。なんでだろうね」
それは胸の内に留めておく事ができずに溢れた気持ちだった。
私は迷っていた。これから先、戦い続けるべきか否か。
ただ吐き出す場所が欲しかっただけで、必ずしも答えを求めていたわけではなかったのに。
「それはお前が空虚な人間だからだろう」
ランサーの真っ直ぐな言葉で、現実は突き付けられた。
「そっか。うん……そうだよね」
怒りは無かった。短い付き合いだが彼は言葉の選び方に容赦が無いだけで、決して人を蔑んだり馬鹿にしたりしない事を私は理解していた。